宋美玄『内診台から覗いた - 高齢出産の真実』

読売新聞のウェブサイトでの連載に加筆したもので、とてもよみやすい。副題に「高齢出産の真実」とあるけど、高齢出産に限った話ではなく、高齢出産以外の妊娠出産全般のことを医者と妊婦当事者の目線から書いているので、昨今の妊娠出産事情に興味がある人にはおすすめできると思う。実は読んだのがだいぶん前で内容を忘れてしまったのだが、頭の中が整理できたし知らなかった知識を仕入れることもできた(それが何かは忘れた…)。
30代での出産は20代での出産と比べるとかなり違うらしく、高齢出産でなくてもリスクが高い。というのはなんとなく知っていたような気もするのだがいざ妊娠出産となると、現実問題として不安にもなって、20代で産んどくのがよかったのかなあ、などと考えたりもする。が、著者も言うように(確か)、年齢は戻せないしリスクはあるが産みたいときに、産めるときに産むしかない。私の場合、20代の内に産んでいたら今よりも悩み多き日々を送ったに違いなく、そもそもいろいろな事情があって妊娠する予定はなかったのだから今さら後悔することもないのだが、自分のことも周りのことも考えても、産みたい気持ちがあってパートナーがいるのであれば、早め早めに挑戦した方がいいと人には言うかも知れない。もし子供ができにくいことがわかっても対処しやすかったり年齢も余裕があったり、健康面で不安が少なかったり、その他親も元気で手伝いが見込めるとか、いろいろメリットがある。しかし個々人の事情があるから押し付けることもできないよなあ。

内診台から覗いた - 高齢出産の真実 (中公新書ラクレ)

内診台から覗いた - 高齢出産の真実 (中公新書ラクレ)

フランソワーズ・ドルト『赤ちゃんこそがお母さんを作る―ドルト先生の心理相談〈1〉』

『フランスの子どもは夜泣きをしない』でも、フランスで今も強い影響力を持つと紹介されていたドルト先生の子育てお悩み相談ラジオ番組の書き起こし。子育てというものにコミットしたことがないので、どれを読んでもあんまり現実味がないのだが、答え方にこれは日本語で、私の感覚でアドバイスに従うのは難しいだろうな、というものもあった。基本的に、子供に一人の人格を認めて、言葉で論理的に伝える、ということが重視されていて、「ツーカー」とか「母この交わりによって通じ合う」みたいなのはない。大人相手にも論理的に言葉で伝える訓練ができているとは言えないので、子供相手に難しいだろうなと思った。また、性に関しては、日本の家庭でどのような教育が現在行われているのかはわからないけど、例えば、包茎尿道下裂の手術をするときに、相手がまだ乳児で言葉を話さないような頃であっても、「この手術をするとそのあと痛くて辛いけど、これを乗り越えればお父さんのような立派な陰茎になるのですよ」と言い聞かせてやる、という話などは自分が語りかけているところが想像できない。
あと、このドルト先生は精神分析医なので、エディプスコンプレックスの話なども出てくるのだが、息子または娘が、父親(母親)の地位を簒奪しようともくろみるとき(たとえば、父親が不在のときに父親の定位置の椅子に座ろうとするとか)、親は「あなたは夫ではないのだから、私の夫の席を取るべきではない」と言わなければならないらしい。このようなときは常に、「あなたのお父さん」ではなく、「私の夫」とすることと。こういうの、日本語だったらどう言ったらいいのかな。ボキャブラリーがないんじゃないかな。もちろんあるけど、子供に語りかける言葉としては、非常に他人行儀な感じになるというか…。そもそも、家庭において「妻と夫」というパートナー関係が表に出てくることってあんまりないような。
それから、触りまくってはいけないらしい。キスしたり過剰にべたべたするのはよくないんだそうだ。
新生児期の動物のような頃から、個人として認めて、一人の人間として言葉をかけて扱う、きちんと(できるだけ)論理的に話してやる、というのは心に留めておきたいと思っている。できるかどうかは別にしても。スキンシップ好きだからべたべたべたべたしてしまいそうだがその辺も自重した方がいいのかもしれないな。

赤ちゃんこそがお母さんを作る (ドルト先生の心理相談 (1))

赤ちゃんこそがお母さんを作る (ドルト先生の心理相談 (1))

Druckerman, Pamela. French Children Don't Throw Food

ニューヨーク出身アメリカ人(ユダヤ系)で、元ファイナンシャル・タイムズの記者だった著者によるフランスの子育て本。フランスで一人目の女の子、続いて双子の男の子を育てる中で知ったフランス流子育てを英米(だけど主にアメリカかな)の子育てと比較してつづる。
これ、フランス式子育ての内幕もおもしろいんだけど、比較で出てくるアメリカの事例の方がずっとおもしろい。フランス式子育てについては、著者がフランスで子育てしてフランス人の友人知人に囲まれているから、直接見聞きして体験した事例ではあるんだけど、パートナーはイギリス人(でも両親はオランダ人みたい)なのでフランス人が家族の中にいるわけではないし、どこか生々しさがなくて憧れが先行してるのかな?と思う節もある。でも、アメリカについては、フランスと対比したからこそあぶり出されてくる、アメリカの独自性みたいのが描かれていて読んでてなるほどと思った。著者は「英語圏の人」としてアメリカ人もイギリス人もオーストラリア人も一緒くたにしてるんだけど、アメリカとイギリスってけっこう違わないのか?私はアメリカには住んだことないし、イギリスも全然現地の友人がいなかったのでよくわからないのだが、少なくともイギリス人はアメリカ人と同じだと思ってないんじゃないかな…。
興味深かったアメリカ(や英語圏)の事例はいろいろある。

  • 子育ての流行が生み出されるニューヨーク。公園に行くと、幼児を連れた父親が、子どもがやることなすこと英語と英語なまりのドイツ語の二言語でナレーションしている。そこにファーマーズマーケット帰りの母親がやってきて、子どもにおやつとして差し出したのは、生のパセリ。野菜を与える、いろいろな食物に子どもを触れさせるのは大事だと考えるがゆえの行為だろうが、パセリはそのまま食べるものではなく、調味料や薬味なのだからおやつとして与えるのはナンセンスである。
  • 子どものお稽古事、課外活動への送り迎えに忙殺されて仕事に復帰できない母親の例(アメリカ)。
  • 母親同士は"me too!!!"という共感の相づちでつながる。ママたちで集まると、夫の悪口大会になり、me too!が響く。フランス人は夫のだめなところを笑い話として語り、愚痴にしない傾向があるとか。
  • ニューヨークの最先端母親たちは、あらゆる育児の流派に通じ、それを自分なりに咀嚼して自分理論を創り上げようとする。フランスではそういうのがなく、わりとみんな同じような指針で子育てしている。
  • アメリカでは、子どもをなだめるために簡単にお菓子類やジュースを与えているようだ。それも頻繁に。
  • とにかく人より早く、うまく何かができるようになることが大事なので、そのチャンスを子どもが失うのではないかと焦ってしまう。
  • 子どもが何をしても、ささいなことで褒めちぎる。ポジティブな反応を返すことが大事(アメリカのことだと思う)。フランスは、滅多に褒めず、褒めても控えめ。誰も実現し得ないような理想像があり、そこからどれだけ近いか離れているかで判断する。
  • アメリカではサマーキャンプが盛んと聞いていたので意外だったのだが、子どもを幼い内から泊まりがけの旅行に出したりすることに抵抗があるようだ。フランスでは親に告げぬままに幼稚園で外出したり、かなり幼い内から一週間くらい泊まりがけの学校行事があるらしい。安全に関する契約書とかもない。アメリカ人の母親たちは不安に思い、「もし、水の中で遊んでいて、そこに鉄塔(電柱?)が倒れて電流が流れて子どもが感電したらどうするんですか????」と聞いてフランス人たちに失笑されたというエピソードが紹介されていた…。

肝心のフランス式子育てについては、食に関するこだわりが半端ない。公立保育園の昼ご飯ですら、コース形式になっており、最後は日々異なるチーズで締めくくられる。同じメニュー、同じ調理法で同じ食材を出すことは徹底的に避けてメニューが組まれている。もちろん、家庭でも、離乳食の初期からアーティチョークなど様々な野菜をいろいろな調理法で子どもに与えて、多様な食材に慣れさせるようにする。アレルギーのことはそれほど気にしないらしい。日本の離乳食はどうなんでしょう?最近は食物アレルギーが増えているから、じょじょに卵や小麦粉は与えていくとか、ちょっと昔よりは細かくなっているとは聞いているけど、わりと多様なものを与えるのではないかな?と思っているのだが。
フランスにおける4つのマジックワードが、thank you, pleaseの英語圏マジックワードに加え、挨拶二つ(出会ったときのbonjourと別れるときの au revoir)であるという話も参考になった。今後フランスに行くとか、フランス人と遭遇する機会があれば、心に留めておきたい。知り合いに会ったらきちんと2つの挨拶ができるように、徹底的に仕込まれるらしい。それができないのは非常によくないことだとか。
子育てエッセイってちょっとバカにしてたけどけっこうおもしろいものだなと思った。当事者になるからかな?日本人の書いたフランス子育て本もちょっと気になるけど、読んでいたらむずがゆくなるかもしれん。

French Children Don't Throw Food

French Children Don't Throw Food

アメリカでもフランスのイメージはボンヌ・ママンみたいな柄なんだ!という発見。というか、英米の人フランス好きすぎるよ。本の中にも、子どもがフランス語を流暢に話すので周りの大人が大喜びする、なんてシーンが何カ所か出てくる。
邦訳も出ています。図書館では大人気で、名古屋でも京都でも30人待ちとかであきらめた。

妊娠に関する雑感

  • 妊娠発覚後、日々何かと思うことがあったり新しい世界を垣間見たりして、新しいもの好きとしてはウキウキなのですが、おもしろいと自分で思うことはあれど、他人にそれを説明するのに躊躇する。親とか夫とか出産経験のある友達とか妊婦とかには言いますが。妊娠前、妊娠話などを聞くのは実に複雑なもので、自分に将来関係あるかもしれないしないかもしれないし、出産するのかしないのか?を考えさせられるというだけでできれば避けて通りたい話題でもあった。今まで同じ世界にいた友人が「あちら側」に行ってしまったな、という寂しさもあった。妊娠にまつわることのお花畑っぽさ、部外者には理解しがたい感じはネトウヨの発言とか童貞を取り巻く物語よりもさらに理解しあえないものを感じていたので自分がそうなるのは怖いなあと思っていたし。
  • 世の中のお母さんファッションはなぜお母さんファッションなのかと疑問だったが、マタニティから始まってるんじゃないかとマタニティを買うようになって思った。お腹をすっぽり隠す下着、チュニック、冷えないレギンス、ぺたんこの靴。柄もふんわり花柄とかレースが付いてるのとかが多い。もちろんそうじゃない服を着こなしている人も多数いますが。なんとなくゆるふわファンシーマタニティに移行し、そのままなんとなくゆるふわママファッションに移行してく人がいるんだろうなと思う。
  • 日本のマタニティだと丸いお腹をゆったり包んで目立たせない服が多い気がするが、ヨーロッパのマタニティを見ていると丸さをどーんと見せつけているものが多い。そもそもお腹が冷えることを気にしないので、へそが出ている人もいる。妊婦イメージフォトでブラトップとローライズ見たいのもよく見るような。日本の写真だと妊婦は丸い腹を手で包んで優しく見つめてたり、そっと手を置いて遠くを見てたりするが、ヨーロッパのを見たら基本的に腹を突き出して得意気だ。「丸いお腹は素敵」みたいな発想があるようで、ドイツ人に妊娠を告げたら「丸いお腹でゴージャスになってるんだろうね!」みたいなことを言われた。腹の丸さをほめられたことはないのでとても嬉しかった。
  • 体調で少し気になることがあってググると、いろんな人のブログがヒットして特に初期から中期にはたくさん読んだ。読むと不安が増幅したりとても悲しい気分になることがあった。その人たちが悪いわけではもちろんない。人のいろいろな感情を知るのはいいことだと思っていたけど、ネットで気楽に検索することによって、見ず知らずの人の辛い気持ち、暗い気持ち、人を責めたくなる気持ち、などに触れること、いいことばかりでもないからうまいことコントロールしないといけないと実感した。身の回りの人との付き合いに集中するだけで感情はもう十分だしそれでも気を配り切れてないだろうし。
  • たまごクラブなどのマタニティ雑誌は魑魅魍魎である。おそろしいので、病院で読む程度にしてできるだけ近づかないようにしている。今まで全く知らなかったが世の中には妊娠出産子育てにまつわる商品が大量に売られており、その売り込みがすごい。私が度肝を抜かれたのは胎教特集で、胎児にいい影響を与えるために、留学経験を生かして妊娠中に通訳だか翻訳だかの仕事を始めた人の例が載っていた。それなら私はものすごくいい影響を与えていることになるが、実際は関係ない気がする…。
  • 助産師さん達のノリについていけないことがある。なんだか幼稚園や保育園の先生みたいなノリというか。

妊娠出産子育て母性などの本

子ども生まれたら本を読めなくなるだろうから今のうちにいろいろと。日本の本だと、世間様はこんな風に思うのか怖い怖い怖いとか、ママ友怖いとか、こんなことできない私はきっと母親失格、とか、本の内容にすぐ右往左往してしまうのが目に見えているので、主に海外の本の翻訳か原書を読んでいます。外国語というフィルターがかかると冷静になれる。あるいは、外国のことなので所詮他人事、と思えるだけなのかな。
ここにはリストアップだけして、感想を書いたらリンクを貼ります。

読了

Far From The Tree: Parents, Children and the Search for Identity

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Expecting Better: Why the Conventional Pregnancy Wisdom is Wrong and What You Really Need to Know

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内診台から覗いた - 高齢出産の真実 (中公新書ラクレ)

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感想
カリスマ・ナニーが教える赤ちゃんとおかあさんの快眠講座

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混迷社会の子育て問答 いくもん!

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赤ちゃん語がわかる魔法の育児書 (カリスマ・シッターがあなたに贈る本)

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French Children Don't Throw Food

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感想
赤ちゃんこそがお母さんを作る (ドルト先生の心理相談 (1))

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フランスの教育の大家、ドルトの教育相談ラジオ番組をまとめたものその1。→感想

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現代の育児における「自然信仰」がいかに母親たちを追い詰めているかを分析しているらしい。
All Joy and No Fun: The Paradox of Modern Parenthood (English Edition)

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現代の子育ての難しさについて(アメリカの本)。
ほんとうのお父さんがいたのよ―ドルト先生の心理相談〈2〉 (ドルト先生の心理相談 (2))

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ドルトさんの自伝。
0~4歳 わが子の発達に合わせた1日30分間「語りかけ」育児

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続 子どもへのまなざし (福音館の単行本)

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読みかけて読むのをやめた本

子どもの無意識

子どもの無意識

フランソワーズ・ドルトがケベックで行ったワークショップの書き起こしだが、ゴリゴリの精神分析だったので現在の私の興味の範囲外だった。ドルトさんはラカンにも高く評価されていた精神分析医だったらしい。精神分析の考え方はおもしろそうだけど、なんだかうさんくさいと思ってしまうんだよなあ…。

ADD関連の本続き

私が困っている問題は、

  1. 気づいたら部屋や自分の空間がカオス
  2. やっていたことを途中で忘れてしまう
  3. マルチタスク不可能
  4. 遅刻、締め切りギリギリ
  5. 長期的な計画を立てられない

たぶん2のせいで1も3も起きていそう。日本の本によれば「ワーキングメモリが普通と比べて小さい」のが原因らしい。やっていたことを途中で忘れるのを避けるため、やりかけたことは最後まで一気にやろうとはしているが行程が増えるとそうも行かなくなってとちゅうやりになる。その辺はリマインダに送ったりして思い出させるようにすることもあるが今度はリマインダを試しすぎてどのリマインダを使っているのか分からなくなって混沌としたり…。どんなに努力しても人並みになることがなさそうなので、複数の本がおすすめするように手を抜くか人に頼むかするしかないのだろうね。

ADD関係の読書

約15年ほど前、「片づけられない女たち」が話題になり、「片づけるのが苦手で生活が崩壊している女性がけっこういるようだ」みたいな話がそこここに出たりしていたのだが、大学に入って京都で一人暮らしを始めて、生活がめちゃくちゃになっていた私にはこの話題は人ごとではなかった。片づけられないのは「病気」であり、私の努力不足ではない、というのは心惹かれる考え方だったけど、一方で病気と見なされるのも恐ろしくて、当時は気になりながら「片づけられない女」関係の本や話題は避けて通っていた。
その後、少しずつ生活スキルが上がって以前ほどの混沌とした状態ではなくなったんだけど、生活様式が大きく変わるとき片づけられない問題はいつも顔を出すから、子どもが生まれて生活が激変するのを前にまた不安になってきた。一人暮らしでの変化が一番大きかったけど、結婚して他人と本格的に生活し始めてからも何かと問題は起きてきた。子どもが生まれたらどうなんだろう?自分一人でもちゃんと管理できないのに子どもの世話なんてできるのか?など今後の生活に何かと不安があるので、何らかのヒントがあればと今さらながらADD関係および片づけられない人関係の本を読んでみることにした。
まず手始めに、サリ・ソルデン『片づけられない女たち』。

片づけられない女たち

片づけられない女たち

アメリカは男女平等が日本より進んでそうなイメージはあるんだが、それでも「片づけ」「気配り」といった領域は女性のものとされているから、整理整頓、お礼のカードを書いて素早く出す、などが絶望的に苦手なADDの女性たちが苦しむことになる、しかもそれが気づかれていない、ということを指摘し、具体的な症状、治療などを解説する。ADDは男女問わないのだがこの本では女性に焦点を当てている。治療前の状態、診断、その後の治療がどのようなコースをたどるのか、典型的な2人の女性(架空)の例を出して説明している。著者本人もADDなので著者の体験もある。あんまり具体的な解決策は載っていないが、他人、特に共に暮らす家族をどのように巻き込み、生活を組み立てていくか、というのが大事というのが参考になった。ADDの治療が進んで、今までは「私なんてどうせ人間としてだめだから多少ひどい扱いを受けても仕方がない、黙っていよう」みたいな状態だったのが、治療が進んで自尊心を取り戻し、意見をはっきり言うようになると、女性の場合は特に家族との関係にひずみが生まれるらしい。今まで決まっていた家族の役割が変化すると、必ずそれに抵抗するメンバーが現れるとか。生活のコーチングやカウンセリングで自分一人のことを解決するのはどちらかというと簡単だけど、人との関係を再構築するのは難しい。
お片づけセラピー〜ADHD/ADDのためのハッピーサバイバル法

お片づけセラピー〜ADHD/ADDのためのハッピーサバイバル法

日本の本。片づけ苦手な人向けライフハック集。一つのトピックでマンガ+解説なので読みやすい(内容が薄いとも言えるが…)。いくつか生活のヒントになることはあって、例えば「余った時間で何かやろうとか思うと結局時間が押して遅刻するから、とにかく出かけろ」というのは今後に生かせそう。私が知りたいのは赤子(と夫)という他人が生活に入ってくる中でどうやりくりしていくか、という話なので、個人で取り組めるライフハックは参考にはなっても求めているものではなかった。『お片づけセラピー』と似たような内容。これも、他人との関係にはあまり焦点が当たっていない。友達や周りの人に声をかけて、やるべきことを思い出させてもらう、とかそういうことは載っているが、一人で一つの仕事をする際にはその辺はリマインダとかで何とかなってしまうからなあ。
へんてこな贈り物―誤解されやすいあなたに--注意欠陥・多動性障害とのつきあい方

へんてこな贈り物―誤解されやすいあなたに--注意欠陥・多動性障害とのつきあい方

著者自身もADD(ADHD?)。実例がたっぷりで、一つ一つの深刻な実例を読んでいると、前に紹介した日本の本2冊の「生活の工夫次第で、片づけられないあなたにもハッピーな毎日が送れます」という軽いノリとのギャップにくらくらしてくる。日本の本はあくまでADHDの人ではなく「ADHDタイプ」を対象にしている、というのはあるのだが、それにしても扱いが軽すぎるのでは。この本では具体的な投薬の話もあり、生涯にわたる治療対象としてのADHD、きちんと取り組まないと生活全般に深刻な影響を及ぼす症状ではあるがうまく付き合えば開花できるADHD、というとらえ方で厳しいけど希望は持てる内容になっている。日本だと投薬は行われるのだろうか?この本を読んでいたら私は整理能力はAD(H)Dと診断されてもいいレベルで低いが全体で見るとそれ以外の症状がほとんどないのでまず患者ではなさそうだと思えてきた。
「片づけられない人」の人生ガイド

「片づけられない人」の人生ガイド

最後に、再びサリ・ソルデンの本を読んだ。
『片づけられない女たち』よりもより具体的に治療の道筋を示している。また、この本では女性だけではなく、男性も扱っている。男性2人、女性2人の診断、治療の過程を示す中で、具体的なアドバイスも提供している。ADDと診断されるとどのように思うか、ADDである自分の受容、ADDの症状のせいであきらめてしまった自分自身のよさや夢の掘り起こしとそれを実現する過程、かつての経験から萎縮することなく、どのように他人の攻撃(ADDからくる失敗に対する不満から人間性を貶めるなど)にうまく対処していくのか、など。他人との関わりをちゃんと扱っているのがいいところだと思う。「私が努力すれば整頓できるようになって何とかなる」で解決する問題ではなく、そもそもADDの人が「普通の人レベルに自力で整頓できるようになる」というのは無理な話らしい。そんな自分との折り合いの付け方、いかに苦手な作業をアウトソーシングするか、いかに人に理解してもらうか、理解されなくても好ましい人とは付き合いを続けていく方法、ひどいことを言われたときに人格と症状とを分けて相手に対峙する方法など、具体的かつ愛のある記述で手元に置いてたまに見返すにもよさそうな内容だった。