Druckerman, Pamela. French Children Don't Throw Food

ニューヨーク出身アメリカ人(ユダヤ系)で、元ファイナンシャル・タイムズの記者だった著者によるフランスの子育て本。フランスで一人目の女の子、続いて双子の男の子を育てる中で知ったフランス流子育てを英米(だけど主にアメリカかな)の子育てと比較してつづる。
これ、フランス式子育ての内幕もおもしろいんだけど、比較で出てくるアメリカの事例の方がずっとおもしろい。フランス式子育てについては、著者がフランスで子育てしてフランス人の友人知人に囲まれているから、直接見聞きして体験した事例ではあるんだけど、パートナーはイギリス人(でも両親はオランダ人みたい)なのでフランス人が家族の中にいるわけではないし、どこか生々しさがなくて憧れが先行してるのかな?と思う節もある。でも、アメリカについては、フランスと対比したからこそあぶり出されてくる、アメリカの独自性みたいのが描かれていて読んでてなるほどと思った。著者は「英語圏の人」としてアメリカ人もイギリス人もオーストラリア人も一緒くたにしてるんだけど、アメリカとイギリスってけっこう違わないのか?私はアメリカには住んだことないし、イギリスも全然現地の友人がいなかったのでよくわからないのだが、少なくともイギリス人はアメリカ人と同じだと思ってないんじゃないかな…。
興味深かったアメリカ(や英語圏)の事例はいろいろある。

  • 子育ての流行が生み出されるニューヨーク。公園に行くと、幼児を連れた父親が、子どもがやることなすこと英語と英語なまりのドイツ語の二言語でナレーションしている。そこにファーマーズマーケット帰りの母親がやってきて、子どもにおやつとして差し出したのは、生のパセリ。野菜を与える、いろいろな食物に子どもを触れさせるのは大事だと考えるがゆえの行為だろうが、パセリはそのまま食べるものではなく、調味料や薬味なのだからおやつとして与えるのはナンセンスである。
  • 子どものお稽古事、課外活動への送り迎えに忙殺されて仕事に復帰できない母親の例(アメリカ)。
  • 母親同士は"me too!!!"という共感の相づちでつながる。ママたちで集まると、夫の悪口大会になり、me too!が響く。フランス人は夫のだめなところを笑い話として語り、愚痴にしない傾向があるとか。
  • ニューヨークの最先端母親たちは、あらゆる育児の流派に通じ、それを自分なりに咀嚼して自分理論を創り上げようとする。フランスではそういうのがなく、わりとみんな同じような指針で子育てしている。
  • アメリカでは、子どもをなだめるために簡単にお菓子類やジュースを与えているようだ。それも頻繁に。
  • とにかく人より早く、うまく何かができるようになることが大事なので、そのチャンスを子どもが失うのではないかと焦ってしまう。
  • 子どもが何をしても、ささいなことで褒めちぎる。ポジティブな反応を返すことが大事(アメリカのことだと思う)。フランスは、滅多に褒めず、褒めても控えめ。誰も実現し得ないような理想像があり、そこからどれだけ近いか離れているかで判断する。
  • アメリカではサマーキャンプが盛んと聞いていたので意外だったのだが、子どもを幼い内から泊まりがけの旅行に出したりすることに抵抗があるようだ。フランスでは親に告げぬままに幼稚園で外出したり、かなり幼い内から一週間くらい泊まりがけの学校行事があるらしい。安全に関する契約書とかもない。アメリカ人の母親たちは不安に思い、「もし、水の中で遊んでいて、そこに鉄塔(電柱?)が倒れて電流が流れて子どもが感電したらどうするんですか????」と聞いてフランス人たちに失笑されたというエピソードが紹介されていた…。

肝心のフランス式子育てについては、食に関するこだわりが半端ない。公立保育園の昼ご飯ですら、コース形式になっており、最後は日々異なるチーズで締めくくられる。同じメニュー、同じ調理法で同じ食材を出すことは徹底的に避けてメニューが組まれている。もちろん、家庭でも、離乳食の初期からアーティチョークなど様々な野菜をいろいろな調理法で子どもに与えて、多様な食材に慣れさせるようにする。アレルギーのことはそれほど気にしないらしい。日本の離乳食はどうなんでしょう?最近は食物アレルギーが増えているから、じょじょに卵や小麦粉は与えていくとか、ちょっと昔よりは細かくなっているとは聞いているけど、わりと多様なものを与えるのではないかな?と思っているのだが。
フランスにおける4つのマジックワードが、thank you, pleaseの英語圏マジックワードに加え、挨拶二つ(出会ったときのbonjourと別れるときの au revoir)であるという話も参考になった。今後フランスに行くとか、フランス人と遭遇する機会があれば、心に留めておきたい。知り合いに会ったらきちんと2つの挨拶ができるように、徹底的に仕込まれるらしい。それができないのは非常によくないことだとか。
子育てエッセイってちょっとバカにしてたけどけっこうおもしろいものだなと思った。当事者になるからかな?日本人の書いたフランス子育て本もちょっと気になるけど、読んでいたらむずがゆくなるかもしれん。

French Children Don't Throw Food

French Children Don't Throw Food

アメリカでもフランスのイメージはボンヌ・ママンみたいな柄なんだ!という発見。というか、英米の人フランス好きすぎるよ。本の中にも、子どもがフランス語を流暢に話すので周りの大人が大喜びする、なんてシーンが何カ所か出てくる。
邦訳も出ています。図書館では大人気で、名古屋でも京都でも30人待ちとかであきらめた。