中川裕『アイヌ語をフィールドワークする―ことばを訪ねて』

著者は人と関わることがそんなに得意ではなかったので、あえてフィールドに参加してみた(学部生の頃)というようなことが最初の方に書いてあったけど、人と向き合うことができる人なんだと思う。そして人が好き。日本の中で見えないものとされているアイヌの人々と会って、和人に対する不信の目を感じたりしつつ、熱意を持って調査に臨む姿勢を支える力はどこから出てくるんだろう。自分のアイデンティティと何も関係がない、日本から遠い世界に乗り込んでいくのとは全く違う困難にぶち当たると思う。いつも日本人は何をしてきたか?今何をするべきか?自分は何か?ということと向き合い続けないといけない。無関係な観察者として存在することは不可能だ。日本が好きだとか好きじゃないとか、そういうことと関わらず、自分が日本人であることからは逃れられないし、実際にどこまで知ってるかとか当事者かとは別に日本人として(いわゆる加害者側として)答えるしかない問題はわれわれにもある。何かの被害者であるとか、あるいは無関係の立場でものを言うよりもきっとそれは難しい。東洋人であれば出会うような、無意識であれ意識的にであれ、表に出てくるヨーロッパ中心主義についての話だったらいくらでも書ける。でも何らかの形で自分も関わっているしそれを生きている問題だったら「そんなものは存在しない」「誤解である」とか逆に「とにかく日本人ですみません」以外のことを言うのは難しい上に居心地が悪すぎてどうしたらいいのか分からなくて知らない振りをしてしまいたくなる。
チカーノとかを学ぶときに、国内の少数派を押しつぶしてきたアメリカ国内のアングロサクソン系や社会制度全体を断罪して多文化バンザイ!みたいにまとめるのは無責任に感じることがあって、でもどういう姿勢がありうるのか考えあぐねている。てのもこの本を読んでまた思い出した。
本書はアイヌ文化のガイドでもあるので上記のようなことばかり書いてあるわけではないが国内の異文化に向き合う一つの形として考える助けになる。アイヌ文化について何も知らなかったこともよく分かりました。巻末にアイヌ語を学べる場所のリストなどもある。東京にはアイヌ料理店もあるそうだ。

アイヌ語をフィールドワークする―ことばを訪ねて

アイヌ語をフィールドワークする―ことばを訪ねて