063 村上春樹『雨天・炎天』

ギリシャ正教の聖地アトス山で散々な目にあい、トルコ四駆走破で散々な目にあう旅行記。まあ、日本から遠く離れて辺境を旅行すればこれくらいの目には遭うであろう、という日本人の旅行者のリアリティがあった。村上春樹の小説の文章と違って、えらく素直な印象を受ける。トルコに関してもアトス山に関してもそんなに予備知識があるわけではなく、旅行後にそれを特別に補強して書いたわけでもないようだ。知識を開陳するのでもなく、旅先のすばらしさを押し付けるわけでもなく、新鮮な旅の本だった。たいていどちらかだと思うから。小説を読んでいるとジャズの話がたくさん出てきたり、アメリカの小説家の名前がさりげなく会話に混じったりといけ好かない感じだけどそういうのはほとんどない。あるのは見知らぬ世界で右往左往する日本人の姿だけで、むしろ好ましかった。

雨天炎天―ギリシャ・トルコ辺境紀行 (新潮文庫)

雨天炎天―ギリシャ・トルコ辺境紀行 (新潮文庫)