Sheltering Sky

ボウルズを読んでいる。以前、どこで読んだのか忘れたが、「疾走感のある文体で一気に読める」といったことが書いてあり、なるほど、と思って原書に挑戦したら挫折したことがあった。五年ぶりに読み返してみたら確かに読みやすい。登場人物の心理描写に絡む部分はさすがに内容があまり分からないが(邦訳で読んだ際にも入り込めなくてとばしつつ読んだ記憶がある)、地の文は短い文章が畳みかけてある上、会話が多くスピードが上がる。
わたしの好きな小説のタイプとして、「頭がおかしい話」「いやな感じの話」「新鮮な話」があり、たとえばフォークナーは頭がおかしい話だし、シルヴィア・プラスは頭がおかしい上にいやな感じの話である。Sheltering Skyは「いやな感じの話」というくくりに勝手に入れることにした。
微妙な関係にある夫婦、ポートとキットとその友人の男性ターナーというアメリカ人三人が北アフリカを旅行している。舞台はモロッコ。三人の職業は不明だが、夫婦は夫の「旅行者よりも旅人でありたい」という日本でもよく聞きそうなモットーにしたがって旅行しまくっている。時は第二次世界大戦後で、ポートは「戦争が全てを変えてしまったが、手つかずの場所ってもんはあるのかな」などと言っている。夜に一人で散歩して声をかけてきたモロッコ人につきまとわれ、成り行きで売春婦とおぼしき女性のところに行き、財布を取られそうになったりしつつ人間の存在について考えている。キットは日常生活にあらゆる予兆を見てしまいそれに振り回されて暮らしている。ターナーはと言えば、実はキットを狙っているようだ。
…なんだか日本人が南米とか東南アジアとかを旅行している小説ではないか、という錯覚に陥った。「いやな感じ」というのはそのあたりから来るのではないかと思う。登場人物は極端な人々で、誰にも感情移入できないが、それ以上に全く異質な存在として描かれているアラブ人たちの描写が何とも言えない。「異邦人」てこんなだよな、という不可解さが魅力となって、ボウルズの小説はおもしろいのではないかと思う。まだ五分の一くらいしか読んでいないのだが、売春婦とおぼしき娘とのやりとりが最も惹きつける場面であった。「サハラでお茶を」の話のわけのわからなさが最高によい。

The Sheltering Sky

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