マーク・カーランスキー『1968−世界が揺れた年(前編)』

1968年当時に二十歳だった著者による、構想十年渾身の作らしい(カバーの裏より)。
ベトナム戦争公民権運動、チェコスロバキアの政治的変化、プラハの春、パリの五月革命、メキシコのトラテロルコの大虐殺、とさまざまなことが起こった年が1968年であった。セサル・チャベス率いるカリフォルニアの葡萄ストライキが起きたのもその頃のようだ。そのころ十代後半から三十代前半だった新しい世代はテレビのもたらす効果を熟知し、弾圧されてその様子が報道されるほどに、自分たちへの支持が高まり運動が盛り上がることを見抜いていた。
著者はアメリカ人なのでアメリカの話が半分くらいを占めている。そしてフランスに対して何となく意地悪。「常に自信と尊大さに満ちているフランス大統領ドゴールは」など、英語のジャーナリズム文体はこんななのだろうか、と思わせる文体(翻訳が悪いわけではない)。あの人名の頭に必ずその人を描写する形容詞句みたいのを付けるのは何なのだろうか。
現在もヨーロッパの大学生が麻薬(主にマリファナ)を悪だと思っていないこと、キューバに対するシンパシー、などの源流を見れた気がしてそれは興味深かった。当時、キューバは外国からのキューバ視察旅行を誘致していたらしい。もちろん、今の死に体キューバとは違うわけでまだカストロが政権を取ってから十年も経っていない。帝国主義アメリカに敢然と立ち向かう一種のユートピアとしてのキューバ、というのが今もあるのかもしれない。日本は海外の見方はやはりアメリカの視点が一つの軸になっていると思う。
すごくどうでもいいことだが、この本に載っていたユージン・マッカーシーの選挙ポスターがネタかと思うくらいおかしい。ネットで画像を探したが見つからなかった。

1968―世界が揺れた年〈前編〉

1968―世界が揺れた年〈前編〉