富山太佳夫『笑う大英帝国』

ずっと前に同じ著者による『文化と精読』を読んだことがある。文学理論を用いた本や論考はとにかく難解で、たいていの場合はうさんくさい。かといってこれは多分違うよね、というにはこちらも自信がなくて消化不良になる場合が多い。でも『文化と精読』は理解が難しい部分もあるけど、いわゆる文学理論を使いつつもジャーゴンに埋もれないで小説の楽しみを伝えていて、自分の読みの甘さに謙虚になれるような本だった。この新書にもそういった読書体験を求めて手に取ったのだけども。
ユーモアというのはその場でとっさに分かってこそであり、解説がついてもおもしろくない。この新書では解説が詳しいわけでもなくて放り出されるような部分もあった。この本は学術書ではなくてエッセイ集のようなものだろうから、なぜおもしろいのか?というのを解説するのは野暮なのかもしれないが。英国ユーモアが分かったとは言えないけれど作品名、人名をいろいろと知ったのでそれはよかったかも。新書は簡単そうに見えたり、入門編のように見えたりしながらかなりの基礎知識を要求するものも多いから油断ならない。
「解説はあえてしなくても分かるだろう」という態度を前にして分からなくとも、それを恥じることはないと思った。ここ十年で得たものがあるとすれば、そこで何故と聞いたっていいと思うようになったことだろう。こうした文学の本を読む度に文学部の授業を思い出す。あと読書会。何故なんて聞けなかった。他の人が言ってることも分からないことが多かった。英語がよくできなかったからも大きいとは思うが…。何故そうように解釈するのですか?と聞けていたら、もっと楽しかっただろうか。

文化と精読―新しい文学入門

文化と精読―新しい文学入門