三ヶ月くらい前に書いたものです。下書きフォルダに入っていたのをアップします。
九年前に死んだ祖父に、若い頃の話を聞きたいなと近頃思う。もう無理なわけだが。元気な頃は、今とは違う時代を生きた別世界の人間である「おじいちゃん」だったし、寝たきりになってからは、その元気な姿を日に日に打ち消していく生々しい「寝たきり老人」だった。
中高生の孫にとっては、戦争を生き抜いた過去の人で、「あの間違った歴史の生き証人」とか「今とはまるで違う昔の暮らしを知っている人」とかでしかなかった。なんかもう、どっちにしても紋切り型しか出てこないと思ってたような気がする。「悲惨な戦時中」「あの過ちを繰り返すまい」という、国語の教科書に毎年出ている話のバリエーションかと。とにかく抑圧されていて、今よりひどくて、猛反省するしかなくて、何もかも間違っている、そんな時代の話が出てくるだけだと思っていた。
しかし死後昔のアルバムが出てきて、浮かれた花見写真(変なイラスト付き)やら、徴兵前に勤めていたらしい会社にいた美女の写真やらを見ていたら、「悲惨な戦争」と平行してまあまあ楽しい生活もあったことがわかった。今は悪とされていてもその頃は善というかむしろ当然のものとしてあった植民地朝鮮とか、軍国主義的な教練とか、戦争とか、そういうものと楽しき青春は共存する。大日本帝国下の楽しき青春のささやかなエピソードとか、日本がどんどん進軍したり勝ったりして盛り上がったとか、満州に行って一儲けってのに憧れた(かどうかは知らない)とか、そんな話を直に聞けたらよかったのにと思う。