無痛分娩

忘れる前に。
出産は無痛分娩だった。正確には和痛と言うらしいが、子宮口が5、6センチ(全開は10センチ)開いたところで硬膜外に麻酔を入れて陣痛の痛みを和らげる。私の行っていた病院では、無痛分娩を確実に実行するためには決まった日に入院、計画的に促進剤を入れて産む必要があり、自然な陣痛を待つ場合は、丁度麻酔医が勤務中に子宮口がほどよく開いていないと無痛分娩を実施できず、時間がずれると無痛分娩を希望していても麻酔なしになる。私は運がよくて、朝の4時に入院して8時頃破水、順調にお産が進んだので12時くらいに麻酔を入れた。その頃にはすでに9センチまで開いていたのだが先生が忙しくてそれより前には来れなかったらしい。そこからはすっかり体が楽になって、助産師と会話しながらお産に臨んだ。いきむ練習までできた。痛みが和らいでいてもいきむのは大変で体力が切れそうになった。血管が切れるんじゃないかと思った。息みすぎて耳も遠くなって産声も小さく聞こえた(実際は大声だったらしい)。子宮口9センチでも死にそうだったのに、あそこからさらに痛みが増してさらに力を振り絞っていきむなんて無理だと思う。
無痛分娩は賛否両論あるが私はやってよかったと思っている。痛みで力むことがないから、麻酔を入れたらお産がよく進んでするっと生まれることもあるらしい。子供は頭が大きく、予定日を一週間くらい過ぎていたので体重も重くて、無痛分娩でなかったらスムーズな出産は難しかったのかもしれない。私自身無痛分娩で生まれているので抵抗はなかった。
子宮口全開直前まで耐えたわけだけど、その時点でかなり苦しかった。周りに医療スタッフがいるし、家族が応援してくれるのだが、産むのは母親一人、陣痛に耐えている間は、真っ暗な海を遠泳しているみたいだった。応援する声だけが聞こえ、いざとなればロープで引き上げてくれるのだが、泳ぐのは自分で、少しでも冷静さを失ったら足を取られておぼれてしまうような感じ。ゴールがどこにあるのかも見えず、ひたすら泳ぎ続けなければならない。安全にあの痛みを和らげる技術があるのなら、選択肢としてもっと普及してもいいと思う。最後まで耐えていないので何とも言えないが、あの痛みを乗り越え産んだことは素晴らしいが、それが今後の人生において何かのプラスになるような気がしない。今後病気やケガなどで痛みに苦しんでも、「あの陣痛に耐えたのだから、この痛みにも耐えられる」、ということはないと思う。陣痛はいつか終わると分かっているし、終わったときに待っているのは喜びのはずなので痛みに耐える用意もできるが、病気でいつ治るかも分からないとかだったら痛みの感じ方も違うだろう。
息子はかわいくて日々かわいがってるけど、これが無痛分娩じゃなかったらもっとかわいいとか、そういうこともないと思う。